「痛くない死に方」鑑賞と長尾和宏氏インタビュー

映画内容は前半はよくある病院の「痛い死に方」、後半は理想の在宅介護での「痛くない死に方」を比べるように物語が進む。「痛くない死に方」とはどういう物なのか?映画の中で長尾役を演じる奥田奥田瑛と主人公柄本佑のやり取りはとても興味深い。生前から「死」というものを受け入れ家族、本人、医者との関係改善を視聴者に問う映画である。

上映後、舞台挨拶があり、その後映画サークルに時間を頂けるという事でメンバー3名でインタビューを行った。

以下全文

福井映画サークル:劇中、主演の柄本佑が「僕もバツイチなんです」という所がありますが・・・

長尾:バツイチ?今日の映画の中で「僕もバツイチ」って誰か言っていた?あ、柄本佑が?

バツイチというか、離婚するじゃないですか。あれは結構あって、あんまり大きな声で言えないけど、在宅(医療)をやっている人は結構離婚しています。それは在宅に限らず、がんセンターにいる人はほとんど全部離婚していますし、僕は芦屋病院と言う所に勤務していたんですが、これはもう全滅で、100%離婚しています。

やはり仕事と家庭の両立というのはね、難しいです、医者の場合はね。やっぱり激務なんでね。特に在宅で看取りなんかやると。(高橋)伴明と飲んでいた時に、そんな話をしたんです。チラッと。半ば酔っぱらって。それを脚本に入れられて(笑)。で勝手にああいう風にして。それで、まあそうですね。

福井映画サークル:よく現場の職員さんが足りない、足りないって、ハードワークって聞きますけど、その現状が良くなっていかないと、なかなかね・・・。

長尾:やはり24時間365日やろうと思ったらね、1人の患者に5人いるんですよ、労働基準法上。だから5人分やらなきゃやらないのを強いているから。本当は在宅医療システム自体に無理がある。それをまともにやっていたら家庭が崩壊するのは当たり前。僕も、もう、どれぐらいになるだろう。開業して3年目、4年目ぐらいに離婚しましたけどね。

僕らも年間、実は、死体を150人、いや180人ぐらい見るんだけど2日に1人死体を見ているけど、気が狂いそうになりますよ。でも悲しい、悲しいです。単純にもうなんか。この悲しみをどこに持っていいのか分からなくて。本当にみんな泣いたり。みな魂の選択とか言うけど、皆何かでやっています。看護師も。看護士なんかもっと悲しい。一番近いから。遺体の処理をやっていますからね。「おくりびと」ってあるじゃないですか。あの役をね。あんな綺麗な(遺体)じゃなく、もっとボロボロの遺体をやっていたら、何とも言えない気持ちになるんですよ。つらいんじゃないんですけど、なんかこう精神を病むというか。だから看護師の場合はバーンアウトします。医師の場合は離婚します(苦笑)。

福井映画サークル:今回皆さんにSNSでどんどん映画の発信してくれという事ですが、映画を観た時にどういう方向で観た人の理解を深めようと、こういう在宅の重要性を知ってほしいとか、痛くない死に方とかこういう事なんだという事もあるかもしれませんし、現場にいらっしゃる方々のこういう苦労を知ってほしいとか、どういう思いがあるんでしょうか。

長尾:実はこの映画、深い映画で、今まで単調な映画もあるんですけど、全部深いんです。さっき言った事全部。切り口って何10個もあるわけで、無駄な所は一つもないっていうのはまさにそうで、一つのテーマだけ、「枯れる」という事でも、「待つ」という事でも2時間3時間でも話せるし。そういう意味でまず、多くの人に評価して頂かないと、まず観て頂かないと。最終目標は医者に見せるという事。医者を変えたい、医療を変えたいから、本を書いた、映画にも協力した。だからそのためには市民に観て頂かないと。医者がいきなりこんな映画観ろといわれても観るわけないんで。いい映画だから先生も観たら?って多くの市民が行ったりしたらね。医者も「鬼滅の刃」を最初から観る人はいない。みんなが観ているから、どんなんかなと観に行くわけ。この映画もある程度ヒットしないと、良い映画だと、評判にならないと。そういう意味で観客動員数というのがまず大切だろうと。だけどメジャー映画ではないので、口コミでじわーっと広がって、行くような映画だと思っているんで。そういう意味で、存在をまず知ってほしい。

福井映画サークル:お医者さんがこの映画を観た時、どういうリアクションを期待していますか?

長尾:それは様々ですね。例えば在宅医療をやっている先生だと「こんなクレーマーのような奴(劇中の坂井真紀のような)どうでもいいやん、「ほっとけよ」となるわけだし、でも若い在宅医だとまた全然違う事を言うし、病院の先生が観るとこれはもうチンプンカンプンの世界なんですよ、まあ日本人がアフリカの生活観たようなもので、もう異文化そのもの。まあ衝撃を受けるわけなんです。泣く奴とかいて、何で泣いているんだよと。全然見た事がない世界なんですね。観る人によって全然違う。「けったいな町医者」なんかもそうで、結構まあ病院の先生も観て頂いていますけど、皆、泣いて頂いていますし。観て頂かないと、映画なんで、いろんな反応があるとしか言えないですね。

福井映画サークル:映画の中のお話を聞いていて、「延命がお医者さんのお仕事みたいに植え付けられていた」と女の子が言っていましたけど、先生はどの段階から、小さい時から町医者になりたい、なりたいと・・・

長尾:いや、やっぱり、それが常識として、空気としてあって、確かに医者になった時に、もう・・・・「けったいな町医者」観た?

福井映画サークル:いやまだ・・・

長尾:その中で、本当にワンカットだけなんだけど、僕が研修医時代に、人工呼吸器とか、必死で輸血したり、血だらけになった人を心臓マッサージする回想シーンがあるんですけど、わずが30秒だけど、これも撮影に一日かかって、そういう場面の医療監修本当に大変だったけど、医療スタッフが完全にスタッフだったんだけど、やっぱりそういうふうな空気だったんですね。だから延命、というか一秒でも長く生きさせる事が良い医療だと。だから、たとえば末期がんの人、全員に人工呼吸器をつないで、もう脳死のような状態になって、で看取っている。これがもう、普通、というか、全然あたり前と言うか、そうしないと怒られると。病院の経営もあったんだろうね。まだ当時25歳だからそんな事、分からなかったんだ。今でもそういう事をやっている病院が結構あるんです。だからこれでいいのだろうかというのがあって、なぜそうなのかと、そういう医療というのは基本的には延命産業なんですよ。延命してナンボなんです。でもいい延命もあれば、あまりよくない延命もあって、後からはやはり尊厳が損なわれてゆくわけです。延命治療がみな悪とかいう事ではなくて、例えば人工透析でもね、やっている人いっぱいいる。でも病気になって動けなくなって、入院してもう植物状態、脳死みたいになって透析やっている人、これはどうなんだって話なんですね。ですから延命治療が悪いという事ではなくて、延命治療のやめどきという言い方なんですね。薬のやめ時、いろんな辞め時を問うているんですね。抗がん剤の辞め時という本も書いていますけどね。そういった事で、そういう辞め時がないというのが、医療のスタンスで。たとえば血圧の薬いつまで飲むの?医学界では6割の医師が「死ぬまで」飲むといっているんですね。

福井映画サークル:死ぬまで!

長尾:そうです(笑)。僕は違うと。やめどきはこうやってやめていくんだと。あるいは糖尿病でインスリンをうっている人いますよね。いつまでうつの?と聞くと、「死ぬまで」と答える糖尿病専門医がほとんどなんですよ。で糖尿病専門医たちにインスリンの辞め時という話を講演したりしている。

お医者さんの中には、医療は延命産業だから止めるという発想がないし、抗がん剤にしても、国立がんセンターの部長は死ぬその瞬間まで抗がん剤を撃つのがベストの医療だと今でもいってます。でも本当にそうなんだろうかと。その人がそれで満足だったら、それ嬉しかったらいいんだけど、もうやめたいと思っても、むりやりうたされている人もいるわけです。そういった事で基本、延命してナンボという世界なんですよね。飲み屋でいったら、いくらでも酒飲んでもらって、だらだらとキャバクラで遊んでもらって、カネもうけて、そういうみたいなところがあるんですよ。医療と言うのは。でもそれで患者は満足かい?と。もう少し自己主張をしてもいいんじゃないかい?自己主張というのはリビングウイルなんだけど、そういう事なんですね。患者の立場になった医療と言いながら、医者が押し付けになっているんじゃないかと。そういう事なんです。

メトロ劇場の人:すみません。もうお時間なんです。

長尾:ああそうかごめんなさい(笑)。

映画サークル:お話をお聞かせ頂き、ありがとうございました!


電車の都合上10分程度の会話であったが、大変濃い内容のお話が伺えた。身内に不幸がないと実際に見えないような現場。そして医者の目線、現状など、長尾氏が今の日本の医療や「死」の迎え方、延命治療の「辞め時」をみんなで考えるべきと問いかけるこの映画、ぜひご覧いただきたい。

メトロ劇場にて4月10日ー23日まで上映
4月24日ー30日までは長尾氏の医療現場を追った「けったいな町医者」上映時間

メトロ劇場HPにて上映時間をチェック

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